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コラム

働き方改革①-新しい残業規制とは

ここがポイント‐この記事から学べること

1.新残業規制導入の背景

働き方改革関連法の成立

中小企業の労務管理に大きな影響を及ぼす①残業規制、②同一労働同一賃金、③脱時間給制度を3本柱とした働き方改革関連法が平成30年7月に成立しました。テレビや新聞などのニュースでも「働き方改革」は大きく取り上げられていましたが、その内容を正確に理解されている経営者の方は少ないのではないかと思います。そこで、働き方改革といわれる上記3つの柱について一つずつ解説を行い、中小企業がとるべき対応策について検討してみたいと思います。ここでは、まず①残業規制について話をします。②同一労働同一賃金、③脱時間給制度については、別記事で解説しています。

長時間労働の是正
長時間労働の是正

労働時間についての基本原則は、1週40時間、1日8時間という法定労働時間です(労働基準法32条)。ところが、労働基準法は、その36条によって、労使の間で協定(いわゆるサブロク協定)を結んで行政に届け出ればこの法定労働時間を延長することを認めています(労働基準法36条)。この36協定があることによって、日本の企業では事実上上限なく、青天井で残業をさせることができていました。

結局無規制にも等しい労働時間法制のもと、労働者の働き過ぎによるメンタルヘルス問題や過労死問題等が続々と生じることになり、いわゆる「働き過ぎ問題」解決のために労災認定基準の変更や職場のストレスチェックの導入など数々の過労死等防止対策が行われてきました。新残業規制は、長時間労働=健康障害の構図が一層明確化された昨今、この悪の象徴ともなった「長時間労働の是正」のために導入されたものであることはよくご理解いただけるのではないかと思います。

そして、これは単に労働者の健康のためだけでなく、労働時間を減らす分「労働生産性の向上」を目指して企業はがんばってね、という趣旨が含まれています。残業規制を導入することによって、企業に労働生産性向上促進の発破をかけるというわけです。ライフワークバランスへの従業員の意識変化もそうですが、労働人口の減少等日本には構造的に抱える問題がありますので、従業員の「働き方」「働かせ方」への自助努力が企業には期待(押し付け?)されているといえるでしょう。

長時間労働の是正

以上が「働き方改革」の名のもとに新しい残業規制が導入された意図や背景ですが、これをしっかりと理解しておくことは非常に重要です。労働時間規制の内容だけを見てこれに対する対策をしようと思うと、「厳しいなぁ、なんか損だなぁ」「企業にばかり負担を強いる」「経営が苦しくなる一方だ、もう嫌になるよ」などと後ろ向きの気持ちになり、表面的な対策に終始しがちになってしまいます。

そうではなく、新残業規制導入の意図、背景を真に理解し、これに対する対策を「前向きに」とることで、中小企業の皆様もリスクを減らして会社を成長させる有効な雇用政策をとることが可能となります。この機会に是非、新労働時間規制をしっかりと理解し、自社をさらに発展させるためのきっかけにしてもらえたらと思います。

2.新残業規制の概要

青天井の残業に上限規制が導入

時間外労働の上限規制の概要は次のとおりです。

ルールⅠ
残業の上限は月45時間、年360時間が原則
ルールⅡ
特別事情がある場合は月100時間未満、年720時間が上限
ルールⅢ
複数月を平均して月80時間を上回ることは許されない

このうちルールⅠについては、規制の原則を定めたもので現行の規制と変わりはありません。現行法でも、厚労省の定める時間外限度基準によって1か月の時間外労働の上限が45時間と規制され、1年間の時間外労働の上限も360時間と規制されています。もっとも、現行法では例外が広く許容されており、特別条項付の36協定を結ぶことでこの制限を撤廃できたため、結局は青天井の残業が可能でした。

したがって、有名無実ともいえた「上限」に命を吹き込んだルールⅠとルールⅡが今回の新残業規制の肝であるといえます。
ルールⅡによって、どれだけ繁忙期であったとしても従業員を単月で100時間働かせることはできなくなります。しかもルールⅢがありますので、2カ月連続で90時間残業させることもできません。仮に特別条項を月99時間とし、ある月において99時間の時間外労働を行わせた場合、ルールⅢに抵触しないようにするためには、翌月は必ず61時間以内の残業に抑えなければなりませんので、緻密な労働時間のコントロールが必要となってきます。

しかも、このルールⅡの単月100時間規制とルールⅢの規制は、「法定休日労働」も含めて計算されます。週一日の法定休日とそれ以外の所定休日とは割増率の違いなど別個に考えられることが多いですが、この新しい時間外労働規制では一緒に合わさって規制されますので注意が必要です。
また、特別事情に基づくルールⅠの残業上限月45時間規制の適用除外は、あくまで臨時的「特別」な事情に基づくものですので、年半分を上回らないよう年6回が上限となります。

そして、これらのルール違反に対しては「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰が定められ、上限規制への実効性を担保しています。

割増率もUP

1カ月60時間を超える時間外労働が行われた場合の割増率については、5割以上の率によって残業代を支払わなければならないことが現行法でも定められていますが(労働基準法37条1項但書)、中小企業に対してはこの規定の適用が免除されてきました。今回の法改正で、この特別割増率の規定の猶予措置が排除されます。
したがって、中小企業においても、1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合、その超えた時間については5割以上の割増賃金をもって残業代を支払う必要があります。

新残業規制が適用されるのはいつ?

新しい残業規制が中小企業に適用されるのは、令和2年(2020年)4月1日からです。大企業に対しては、1年早く平成31年(2019年)4月1日から適用されます。
新残業規制適用までに許された猶予期間はわずかです。恒常的な長時間残業が生じている企業では早急に対策を検討する必要があります。

一部の業種では適用が除外

自動車運転業務、建設事業、医師、研究開発業務については、人手不足や業務の特殊性等の理由により新残業規制の適用除外とされています。もっとも、あくまで改正法施行後5年間の猶予という位置づけですので、将来的には上限規制の全面適用も想定されます。

3.中小企業がとるべき対策

(1)雇用契約の内容と労働時間の実態を把握

新労働規制への対応策を検討する前提として、まずは現在の就業規則、雇用契約書(労働条件通知書)の内容と従業員の働き方とが現在の労働基準法に合致しているかを確認します。現在の法規制への対応度を把握し、これが十分にできていない場合は現時点でのリスクを洗い出すことが出発点になります。

(2)新残業規制へのあてはめ

従業員の労働時間の実態に基づいて、新残業規制をクリアできるかを次の各視点から確認します。

  1. 年720時間が時間外労働の上限ですので、月平均60時間以内の残業であるか否かを確認します。
  2. 月45時間を超える残業のある月が6カ月以内であるか否かを確認します。
  3. 1カ月の残業時間が100時間以上の月があるか否かを確認します。
  4. 繁忙期の残業時間が2カ月連続で80時間以上となっていないか否かを確認します。

これはすべての従業員について確認することが必要です。現在の労働環境が新残業規制に合致していない場合は、これに適応できるよう雇用制度や賃金制度を見直していくことが必要となります。
そして、この時の対策の立て方としては、法改正の意図や背景を理解したうえで、「規制だから仕方がない」というような後ろ向きの気持ちではなく、これを機に「労働生産性向上に取り組む」という前向きな姿勢で向かっていくことが企業を一層強くする確信しています。

弁護士 古山雅則

この記事を書いた執筆者:弁護士 古山雅則

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。

2019.03.18 | コラム

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