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今どき社内恋愛禁止はないでしょう、と思われる方も多いかもしれませんが、少し前にこんな記事を見つけました。
【マクドナルドとインテル、トップはなぜ「社内恋愛」で解任されたのか】
(現代ビジネス 2019年11月26日配信)
従業員と役員という立場の違いや、文化が異なる外資企業の例ではありますが、「社内恋愛禁止」はどうやらいまだに生き続けているようです。
このほか、社内恋愛禁止ではありませんが、企業では私生活への介入とおぼしき様々な社内ルールが設けられているのが実際です。
例えば、接客業などでは身だしなみの一つとして「ヒゲ禁止」を定めている会社もあるかもしれません。あるタクシー会社では、口ひげを生やした従業員について「ヒゲをそり、頭髪は綺麗に櫛をかける」との服務規定に違反するとして下した処分を巡って裁判となった例があります。また、茶髪に染めた従業員が命令に違反してそれを改めなかったため諭旨解雇にした会社でも、解雇の有効性を巡って訴訟となりました。
最近では、職場におけるヒールのあるパンプス着用が義務付けられていることへの問題提起として「#KuToo運動」が記憶に新しいでしょう。「#KuToo」とは、「靴(くつ)」・「苦痛(くつう)」・「#MeToo(みーとぅ)」を合わせた造語で、これには多くの賛同者が集まるなど大きな話題になりました。「#KuToo運動」のサイトを見ると、運動者側の問題意識として次の二つのことが示されています。一つ目は同じ職場、仕事内容なのに性別によって許される服装が違うということ。二つ目は、効率の悪い、あるいは健康に害があるにも関わらずそれよりもマナーを優先させること。当時の厚生労働大臣である根本匠厚生労働相はこの問題に対し、「社会通念に照らして、業務上必要かつ相当な範囲」であればそうした服装規定は受け入れられると答えていますが、皆さまはどのようにお考えされるでしょうか。
「社内恋愛」と聞くと、やはり「社内結婚」というものが連想されずにはいられません。そこで、少し女性労働モデルと社内結婚について考察してみたいと思います。
平成27年に女性活躍推進法が成立するなど、今では女性の社会進出が当たり前のように言われるようになりました。同法は、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分発揮されることが一番重要であるとの認識を示したうえで、女性の職業生活における活躍を推進することを目指しています。
ところで、1950年代以降のいわゆる日本型雇用システムでは、女性は「職業生活」を営む存在ではなく、あくまで「家庭に帰属するもの」と捉えられていました。男性正社員は「会社に帰属するもの」として定年退職に至るまで長期にわたってモーレツに職業生活に邁進し、妻はそうした夫を家庭で支えます。女性は「家庭に帰属する存在」ですので、企業で就労するとしてもそれは結婚するまでの短期的・一時的なメンバーと位置付けられていました。事務系職場における補助業務を主に担っていたこうした女性はオフィス・レディ(OL)と呼ばれていましたが、このOLが典型的な女性労働モデルだったといえるでしょう(もちろん一部には「キャリアウーマン」と呼ばれるような男性と同じような働き方をされる女性もいましたが、それは「典型的」な労働モデルではなくごく少数の「例外」という捉え方になります。)。
高度成長期を支えたこの男女別の労働モデルですが、当時は男性社員だけの稼ぎで生活することができ、女性も短期間ではあるものの正社員としての高待遇を得られたこともあって、これを男女差別だと考える向きはほとんど見られませんでした。一億総中流とも呼ばれた意識の中で、こうした労働モデルは広く受け入れられていた時代があったといえます。
そうした時代の流れの中でも、少数とはいえ、長期勤続してきた女性が男女別の雇用制度の不当性を訴える例が出始めることによって、徐々にこの労働モデルは修正されていくことになります。その先駆けとなったのが、「結婚したときは退職する」との結婚退職制の効力が争われた「住友セメント結婚退職制解雇事件‐東京地判昭和41年12月20日(判タ199号112頁)」です。
同裁判の判決では、女子労働者のみに対して結婚を退職事由とすることは、性別を理由とする差別をなし、かつ結婚の自由を制限するものであつて、しかもその合理的根拠を見出しえないことを理由に、結婚退職制を無効と断じています。
また、男女別定年制に関する訴訟も相次ぐようになり、「日産自動車男女別定年制事件‐最判昭和56年3月24日(判タ440号53頁)」では、定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた就業規則を性別のみによる不合理な差別を定めたものであり民法90条により無効とすると判示しています。
こうした裁判を通じて男女平等取扱いの法理が形成されていき、昭和60年(1985年)に男女雇用機会均等法が成立するに至ります。
さて、雇用における男女平等の問題はまた別の機会に譲るとして、こうした労働モデルの面から社内結婚について一言述べたいと思います(なお、ここでの論考は労働モデルからの一つの歴史的考察であって、結婚の良し悪しや社内結婚の是非といった価値観を含むものではありませんので、念のため。)。
年功賃金、終身雇用という雇用システムの中で、ほとんどの男性はどうしても仕事第一となり、職場で過ごす時間が圧倒的な割合で占められることになります。そうすると、男性にとっての出会いの場が職場となることは必然で、職場結婚は婚姻の形としての主流の地位を築きます。かつての労働モデルにおいて、女性はOLとして男性正社員の仕事を支えるという立場だったことから、その延長で男性を支え家庭を安心して任せられる女性像とも重なります。こうして、男性にとって職場結婚は無意識的にも最適な配偶者を得る場となりえたわけです。また、女性にとっても、条件面ではある程度均質化された中から男性を選ぶことができ、そのポジションや仕事ぶりによって将来性も含めた魅力を感じ取ることは容易だったかもしれません。
昨今では、OL型女性労働モデルは衰退し、女性活躍推進法に見られるように女性も男性と同様に職業生活を営む存在となりました。また、経済面からも女性に働くことを求める男性は増えており、それぞれが理想とする男性像や女性像、あるいは婚姻生活の形は変わってきているでしょう。
とはいえ今の時代であればなおさら、職場は入社試験という共通の選抜を潜り抜けてきた者同士が集う場であり、高い確率で釣り合いの取れた配偶者を得られるという点において、社内結婚は社会学的に見れば極めて合理的な婚姻の形と考えることもできそうです。結婚しない男女が増えている理由には経済的な事情も含め様々なものがあるかと思いますが、コストのかかる様々な「婚活」が流行らざるを得ない理由の一つには、こうした社内結婚の衰退ということも挙げられるのかもしれません。
(本項の参考として濱口桂一郎著「日本の雇用と労働法」-日経文庫)
企業は、多数の労働者を組織し円滑に企業活動を行っていくために、「服務規律」と称する従業員の行動規範を就業規則に定めることが一般的です。労働者がこの服務規律に違反した場合、使用者は当該労働者に対して制裁罰として懲戒処分を行うことがあります。
この服務規律と懲戒処分は、次のとおり「企業秩序」という概念で捉えることができます。
「企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。」
(富士重工業事件‐最判昭和52年12月13日)
つまり、使用者は、企業の存立と事業の円滑な運営のために必要不可欠な権利として企業秩序を定立し維持する権限を持ち、労働者は、労働契約を締結し雇用されることによって企業秩序を遵守すべき義務を負うということになります。
もっとも、労働者は「企業の一般的な支配に服するもの」ではありませんので、使用者が有する「企業秩序定立権」も無制限なものとはなりえません。企業が定める行為規範(企業組織の構成員として守るべきルール)は、それが企業の円滑な運営のために定立されるものである以上、そのために必要かつ合理的なものであることが求められます。労働者の私生活上の行為は、実質的にみて企業秩序に関連性のある限度においてのみ規制の対象となるといえます。
それでは、「恋愛」という私的な事柄に企業が介入することはできるでしょうか。感覚的には「企業秩序とはまったく関係ない」「そんなプライベートなことに企業が口を挟むのはおかしい」とも思えますが、果たしてすぐにそのような答えは出せるでしょうか。
ここで「恋愛」という言葉を辞書で引いてみると、こう書かかれているものがあります。
「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔いないと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと」
(新明解国語辞典第7版)
まさにドラマや映画に出てきそうな「二人だけの世界」を表していますが、これを見るとどうやら会社の仕事を犠牲にしても悔いがない、というほどの熱烈な感情が生まれている様子をいうようです。そこまでいきつくのは極端な例かもしれませんが、恋愛がらみの事件を見ているとそれが全くないとも言い切れない怖さをなんだか感じさせられます。
業務内容によっては、そんな二人が社内にいたら仕事にならない、業務や社員が危険にさらされる、という職種もあるかもしれません。
また、恋愛は必ずしも双方向とは限りません。例えば、役員や部長といった強力な権限をもった上司からその感情が始まった場合、相手方は自らの昇進や地位、仕事のしやすさなど様々なことを考慮して、もしかしたら意思に反して「お付き合い」を始めざるを得ないかもしれません。また、権限をもった上司と恋愛する者は、それによって、能力や貢献度合いを無視した贔屓を受けやすいなど、他の社員のモチベーションにも影響しないとは言い切れません。
このように考えると、「社内恋愛」といっても様々な形があるといえ、職務や立場によって「企業秩序」への影響を無視することができないケースも想像することができそうです。
したがって、「社内恋愛禁止」といっても、感覚に任せてこれを頭ごなしに否定するのは早計かもしれません。例えばその規制の対象者が限定される場合や、期間制限を付したらどうなるかなどケースに応じて少し立ち止まって考えてみる価値はありそうです。
こうやってみてみると、「社内恋愛禁止」といっても様々な観点からとらえて、関連する問題も含めて一考してみるのもおもしろいのではないでしょうか。
なお、ここまで題材として抽象的な「社内恋愛禁止」規定について散々述べてきましたが、実際には、「社内恋愛」といった漠然とした感情的な面をとらえた規定とはせずに、その体現であるところの具体的な行為をとらえた規制を検討することになるでしょう。
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
2020.02.05 | コラム
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