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先行き不透明な時代にあって、優秀な人材を確保しようとした場合は特に、「年功」で賃金が決まる日本型雇用はどうしても大きな足かせとなります。職務の内容や能力、専門性等が賃金では反映されにくいため、どれだけ会社に貢献しようと若年のうちは給料が低く抑えられ、長く働き「年功」ができてようやく高い給料が支払われる「見込み」というのでは、高度成長期のような「右肩上がり」ではない今の時代には正当な対価を得るまでのタイムラグが大きすぎます。
優秀な若年層への待遇改善を進めている企業もありますが、他方で「賃下げ圧力 中高年に集中」(日経新聞3月1日朝刊)という記事が踊るように、総人件費抑制の主な対象となっているのが40~50代などの中高年層です。20~30代の間抑えられてきた分、これから貢献度以上の給料をもらえると思った矢先に賃金カットの対象となるというのですから、現行の日本型雇用制度のもとでも徐々に年功賃金のひずみが生じているといえるでしょう。
もっとも、こうした「中高年」に対する「日本型雇用外し」ともいえる不遇な扱いは、実は昔から形を変えて存在しています。表向きは「年功」と称して勤続年数に応じた企業貢献を称えながら、その裏では、成果と賃金のアンバランスさから、最も「切り捨て」対象となりやすいという悲しい現実が横たわっています。
「働かない中高年」がやり玉に挙げられることがありますが、それは決して中高年がサボっているわけではなく、仕事の成果に給与水準が見合っていない年功賃金制度によってもたらされている不可避的な問題ともいえます。考課査定があるとはいえ、年功賃金によって勤続年数に応じて上昇していく賃金は仕事の成果や生産性とリンクするものではなく、やがてその乖離は企業にとって経済的合理性を満たさない大きな負担となっていきます。
このことは、整理解雇時において、未習熟の新入社員ではなく、長期勤続によってその経験値、能力から会社の戦力となるはずの中高年層ほど解雇対象に選別される傾向がある社会的実態からも否定できない事実といえるでしょう。
裁判所もまた「年功」のある中高年を優先的に解雇することを認めており、例えば、整理解雇の有効性が争われた東京地裁昭和63年8月4日の判決では、「年齢45歳以上、再建計画による業務整理により冗員となる者」という基準で選別した解雇について、「人件費コストの高い高年齢の従業員を解雇の対象とすることはまことにやむを得ないところである」と述べるに及んでいます。
「年功」によって本来は大切にされてしかるべき中高年ほど、企業から優先的に解雇されるという激しい矛盾が、年功賃金にはその実として隠されているのです。
働き方改革による副次的な課題として、あるいは少子高齢化、女性の社会進出といった働き方改革を後押しする社会情勢からも、企業は今後、年功賃金、終身雇用、総合職制度、退職金制度といった日本型雇用からの脱却を真剣に検討していかなければなりません。
仕事一辺倒ではない働き方モデルを希求する働き方改革のもとでは、これまで礼賛されてきた日本型雇用は徐々に成り立たなくなっていくでしょう。
実際の職務能力や成果と一致しない給与保証を強いられる年功賃金は、本来の意味での「同一労働同一賃金」とも整合的ではなく、向上を目指すべき生産性をむしろ低下させ、家事育児への男性参加を促し夫婦で世帯収入の稼得を目指す働き方改革にも馴染みません。企業は、法律それ自体からは規制されていない労働モデルと賃金制度について、日本型雇用の良さを残しながらも、年功的要素を低減させ、役職や責任、成果、あるいは職務そのものに比重を置いた設計へと少しずつ変化させていくことが必要になってくるように思います。
このことは、労働者側にとっても、働き方改革による労働負担の軽減に甘んじるのではなく、労働時間削減によって生じた余暇を自己研鑽に費やすなど自らの価値を高めることが求められているといえます。特に若年層にとっては、20年後、30年後自らが中高年層になったときに、「年齢相応の給料」という甘い期待が過去の遺物となり、「成果」や「職務」という個々人の能力等を反映した待遇となりうる時代となっている可能性から目をそらすべきではないといえるでしょう。
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
2020.06.03 | コラム
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