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ユニセフによる調査によれば、日本の子どもの「精神的な幸福度」は38カ国中37位という最低レベルであることが報告されています(日経新聞2020年9月4日朝刊)。日本の「身体的健康」は1位で、経済的にも比較的恵まれているとされながらも、自殺率の高さが要因となって「精神的幸福度」としては最低レベルと判断されたようです。なお、15~19歳の10万人当たりの自殺率は、ギリシャは1.4人と最小で、日本はその約5倍の7.5人とされています。
ユニセフの調査は「子ども」を対象としていますが、「若者」像について分析した良著にメディア出演などでおなじみの社会学者古市憲寿氏による「絶望の国の幸福な若者たち」(2015年 講談社+α文庫)という書籍があります。この本の中では、20代の約7割は生活に満足しているという内閣府による「国民生活による世論調査」(2010年時点)の結果を伝えたうえで、高い生活満足度による幸せな日本の若者たちの一面を分析しています。格差社会だ、非正規雇用の増加だと言われながらも、生活満足度は上昇を続けているというわけです。
他方で、若者たちが本当に幸せなのかを疑ってしまうようなデータとして、20代の63%の人が悩みや不安を感じているという「国民生活による世論調査」の結果も伝えています。現在の生活に満足しながらも、その生活に不安を感じ、将来に対する希望を持つことができない若者像をあぶりだしています。自分たちの「小さな世界」には満足しているけれど、「社会」という「大きな世界」には不満があり、「今日よりも明日がよくなる」「将来はより幸せになれるだろう」という希望を抱くことができない、あるいは抱こうとしない若者像です。これは、ユニセフが示す日本の「精神的な幸福度」の低さと繋がっているように思います。
伝統的な日本型雇用では、職務内容に限定のないいわゆる総合職として新卒一括採用が行われ、年功序列という大きな枠組みの中で昇給・昇格が実施されていくことが予定されています。昨今の「働き方改革」や「脱日本型雇用」のかけ声のもと、こうした日本型雇用は徐々にではありますが薄らいでいっている傾向がありますが、この脱日本型雇用の意味するところの一つは、仕事一辺倒ではない労働モデルの作出にあります。
職務を明確にしたジョブ型雇用が進めば、高い能力を身につけてハードに仕事に従事する働き方もあれば、仕事の難易度を高めることなくライフワークバランス重視の働き方も選択肢となります。それは、総合職あるいは正規・非正規という枠組みの中で行うのではなく、ジョブ型雇用として行われるところに従来の雇用制度との違いがあります。階段を上り続ける宿命を背負った総合職ではなく、階段を上る必要のない正社員という労働モデルが確立されることは、多様な働き方、多様な価値観による豊かな社会を築くことに資するものと思います。
このジョブ型雇用では、専門性を身に着け、能力を高めて上を目指す労働者層と、ハードワークを避けキャリアップを目指さない労働者層とに大きくは二分されることになります。当然、前者の方が高賃金となり、後者は低賃金に留まる可能性が高くなります。ここで大事なのは、後者も立派な働き方であり、選択肢として十分に尊重されるというものです。前者に比べて低賃金であったとしても、欧米では当たり前のように夫婦共働きのダブルインカムであれば、生活レベルが低くなるというものでもありません。
「階段を上り続ける」イメージが根強い日本型雇用の影響から、「世帯主」という言葉で表されるように一人で世帯を支えるだけの年収が必要だという誤解が蔓延し、そのレールに乗れないことを悲観して希望よりも不安が大きくなっていることが「精神的な幸福度」を下げている一つの要因のように思われてなりません。ジョブ型雇用の進展は、使用者側にとっては脱年功賃金による労働生産性の向上という大きなメリットを享受することができますが、何よりも働き方の選択肢が増えることによって、労働者側にとっても精神的な幸福度を高めるという重大な変革をもたらす可能性を秘めていると思います。
生活満足度が高いことからもわかるとおり、日本は「衣食住」が満たされた恵まれた国であることは間違いありません。このことが、多くの人にとって危機感を抱くことを阻害し、悲観はすれどもそれを乗り越えるためのバイタリティーが生まれにくくなっているように感じています。今後、二極化はますます進んでいくものと予想しますが、そうした中にあって、ジョブ型雇用はどちらの側にとっても社会的に有益な労働モデルとなるのではないでしょうか。
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
2020.09.24 | コラム
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