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政府が進める働き方改革では、残業規制、同一労働同一賃金、脱時間給制度が3本柱として掲げられていますが、ここでは中小企業にとって労務管理に対する影響が大きいと考えられる同一労働同一賃金について、その内容と対策を解説します。同一労働同一賃金に関わる法改正は、中小企業においてもその内容をしっかりと理解したうえで、労務管理上の対応を行う必要のある重要な事柄といえるでしょう。
正規の雇用関係にある正社員以外のパート社員、アルバイト、契約社員、嘱託社員などと呼ばれる雇用形態の労働者を「非正規労働者」といいます。この非正規労働者については、「雇用の不安定さ」の点でも問題が指摘されますが、今回の法改正の趣旨は、非正規労働者の「不合理な待遇の格差」を解消することにあります。
非正規労働者は正社員の6割程度の給与とも言われ、年収100万円~200万円の低収入労働者も多く、正社員との待遇格差に対する不公平感は大きなものがありました。
同一労働同一賃金とは、一言でいえば、職務の内容が同じであれば雇用形態にかかわらず平等に賃金を支払う、というものです。
なお、正確に言えば法律の内容は「同一労働同一賃金」そのものではないと考えますが(つまり、職務内容が同一であれば必ず同一の賃金であるべし、という考え方そのものを採用しているわけではない。)、分かりやすさを重視し、また一般的にも同一労働同一賃金の名で呼ばれていますので、ここでも改正法=同一労働同一賃金ということで話を進めたいと思います。より正確に言えば、従業員の均衡・均等待遇原則といったところでしょうか。
現在でも、パートタイム労働法、労働契約法においてこの均衡・均等待遇に関する規定は置かれています。内容については次の改正法の箇所で合わせて説明します。
このうち、労働契約法20条をめぐる非正規待遇格差の問題については、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件という2つの最高裁判決が出ており、改正法における同一労働同一賃金への対策にも参考になるものと思われます。
改正法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、上記でみたようにパートタイム労働法と労働契約法でそれぞれ短時間労働者(パートタイマー)と有期労働契約者(契約社員など)に関するルールを定めていたものを、パートタイム労働法に一本化してルールが整備されます。これに伴い、パートタイム労働法は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(ここでは「パート・有期労働法」と呼びます。)に名称を変更し、短時間労働者と有期労働契約者の双方に適用されることになります。
肝心の中身については、基本的には現在のパートタイム労働法8条、9条及び労働契約法20条の内容を引き継いでいますが、順に内容を確認していきましょう。
改正法であるパート・有期労働法8条では、現行法のパートタイム労働法8条(短時間労働者の待遇の原則)を有期雇用労働者についても適用し、使用者に対して短時間労働者または有期労働契約者への均衡処遇を求めています。
パート・有期労働法8条に違反すると判断された場合、不合理とされた待遇を定める部分は無効とされます。その結果、不法行為として損害賠償請求の対象となり、賃金であれば、過去の差額賃金相当額を逸失利益として賠償請求されうることになります。
この点は、現行の労働契約法20条がもつ民事的効力と同様のものと解されます。
改正法であるパート・有期労働法9条では、現行法のパートタイム労働法9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)を有期雇用労働者についても適用し、使用者に対して短時間労働者または有期労働契約者への差別的取扱い禁止しています。
正社員と①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲が同一である場合に、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、短時間・有期労働者を正社員と差別的に取扱うことが禁止されています。
厚労省令で定める福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)については、短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えることが義務付けられます。
パート・有期労働法8条(不合理な待遇の禁止)に関し、短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合は、事業主は、正社員との「待遇の相違の内容及び理由」等を説明することが必要となります。
正社員を募集する場合の募集情報の告知(応募機会の付与)など、短時間・有期雇用労働者に対する正社員への転換を推進する措置が義務付けられます。
まず、正社員と非正規社員との間に、基本給、賞与、諸手当、福利厚生、個別の労働条件等の個々の待遇ごとに、どのような相違が存在しているのかを確認し、整理します。
正社員には支給されていて非正規社員には支給されていない個々の待遇それぞれについて、支給要件や趣旨を確認します。そのうえで、上記で説明した3つの判断要素①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲、③その他の事情を考慮したときに、その性質や目が非正規社員に対しても同様に及びうるものか否かを検討します。
待遇に相違が生じている場合、個々の待遇に対して①職務内容(業務の 内容及び責任の程度)、②職務内容と配置変更の範囲、③その他の事情を考慮したうえで、待遇差を正当化しうる合理的な理由の有無を検討します。
賃金規定や雇用契約書に個々の手当の目的・趣旨を明確に規定し、先に検討した趣旨や目的に照らして各種手当を統廃合するなど、個々の待遇の内容や支給要件を明確にします。待遇差の理由について説明を求められた際、これに対応できるよう準備しておくことが必要です。
不合理待遇禁止をクリアするためには、従業員区分とその処遇の体系を、職務の内容、人材育成・人材活用の仕組みの違い及びその他の事情から説明がつくように修正し、処遇内容や条件を再編成することも検討結果に応じて必要となります。
なお、改正法による同一労働同一賃金は、大企業には令和2年(2020年)4月から、中小企業には令和3年(2021年)4月から適用されます。大企業では、例えばイオンリテール株式会社が社員区分に関わらず通勤手当の上限を撤廃することを発表するなど、対応が進んでいるところもありますが、未だ対応準備が進んでいない中小企業では早急に対応への着手が求められます。
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
2019.04.24 | コラム
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